2.母が死んだ

遠方に嫁いだ私。
10数年前のその日から、ぼんやりと「親の死に目にはあえないんだろうな」と思っていた。
でもまだまだ先のことだと思っていた。
両親とも80過ぎまで元気でいるだろうと。
そこになんの根拠もないのだけど。

母が先日大腸癌で亡くなった。
年齢は、80過ぎどころかまだ60代半ばを過ぎたところ。
告知を受けたときには既に手術ができないほどの大きさになり、腸閉塞も起こしていた。
連絡を受けて私は慌てて新幹線に飛び乗った。
故郷の駅に着くまで、不安で自然と涙が出た。
駅まで迎えに来てくれた兄の車で病院へ向かう。
母は笑顔で迎えてくれた。
絶食で点滴はしているけれど、顔色も良くいつもと変わらないように見えた。
「負けないんだから!頑張るんだから!」と笑顔でガッツポーズする母。
笑顔の裏でどれだけ不安だったことか…
あの笑顔は、全て私や父、兄への気遣いだというのはわかっていた。
わかっていたから、私もできる限りの笑顔で応えた。

あの日、病室のベッドで精一杯の笑顔を見せてくれた母は、先日火葬を終えて、私が両手で抱えられるくらいの大きさの箱に納められた。
実家には祭壇が設けられ、納骨の日まで母はそこにいる。