5.ホスピスへ

ホスピスへ転院するにあたり、母を搬送するための介護タクシーを手配するよう、病院から言われていたのでネットで探してみた。
移動中の点滴は?モルヒネもあるし。
車椅子?ストレッチャー??
ナースステーションで相談してみよう。
すると、救急車に先生付き添いで搬送することが決まったので、車を手配する必要はないですよ、とのこと。
それなら安心!…でも、それだけ母の状態は良くないということなのか…

転院の日、病室の荷物をまとめ母の着替えなどは看護師さんにお任せ。
それが終わり、私は母の髪をとかしゴムで結った。
母は病室のベッドに寝たまま救急車で移動することになった。ストレッチャーに移すんじゃないんだ?と、驚き。そのまま救急車乗れるんだなあ…

お世話になった看護師さんたちにお礼を言う。
「お世話になりました。ありがとうございました。」
私も何度か入院の経験はあるけれど、病院を去るときあんなに悲しい気持ちになったことはない。
転院してから、どのくらい生きられるのだろう?
父は母と共に救急車へ。
私は別の車に荷物を載せて転院先のホスピスへ向かった。
泣いて事故でも起こしたりしないよう気をつけながら。

転院先のホスピスは郊外にあり、病院の最上階でとても見晴らしがよかった。
周りは住宅や田んぼ。
高い建物などに遮られることなく、壮大な岩手山を眺めることができた。
今まで見てきた山と同じ山。でもとても大きく見えた。
自然と涙が流れた。
ここが、母が最期に過ごす場所になるんだろうな。

涙を拭い、母の病室へ。
病衣に着替え少し落ち着いたところへ、看護師さんが小さな氷のかけらが入った器を持ってきてくれた。
ずっと、食事どころか口からの水分補給もままならなかった母。
小さな氷のかけらを口にしたとき、母がぱあっと明るい表情になったのを私はきっとずっと忘れない。

部屋はゆったりとした個室で、ソファベッドが置かれ家族は同室で寝泊まりができる。
この日から父は毎日ずっと泊まることを決めた。